シギ・チドリ類の保全策として重要な干潟上のバイオフィルム

干潟はシギ・チドリ類にとって不可欠な採餌場であるが、気候変動や人為的影響によって深刻な影響を受けている。桑江朝比呂氏らの研究グループは、バイオフィルムに焦点を当てた干潟生態系への積極的介入によるシギ・チドリ類の回復効果について、最新の総説で探っている。

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世界的に減少しているシギ・チドリ類保全の重要性が高まっている一方、減少の理由についてはいまだに明らかになっていないことが多い。しかし、小型のシギ・チドリ類が餌としてのバイオフィルムの重要性が新たに認識されたことにより、その減少の主な理由と回復への道筋の両方の手がかりが得られるかもしれない。

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カナダ・ブリティッシュコロンビア州・フレーザー川の河口に位置するロバーツ・バンク干潟においてバイオフィルを食べるヒメハマシギ(Calidris mauri)(撮影:Jason Puddifoot)。

バイオフィルムとは、粘り気のある薄い粘液の層で、特に珪藻(ケイ素の骨格を持つ単細胞植物)、バクテリア、無脊椎動物、有機物(デトリタス)などで構成される複雑な集合体であり、干潟表面のあらゆる場所を覆っている。最近まで、このような生息地は、保護価値の低い「荒地」と考えられ、バイオフィルムに関する科学はほとんど無視されていた。しかし、小型のシギ・チドリ類の舌には微細な剛毛が生えており、この剛毛を使って干潟表面のバイオフィルムを素早く舐め取って食べていて、その量が1日の食料全体の50%以上にも及ぶことが発見されて以来、この状況は急速に変化している。

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(左上)北海道コムケ湖におけるバイオフィルムのサンプリング(撮影:桑江朝比呂)。(左下)バイオフィルムの走査型電子顕微鏡写真(撮影:一見和彦)。(右上)トウネン(Calidris ruficollisの)の舌先の微細な剛毛の形態撮影(撮影:桑江朝比呂)。(右下)舌先と剛毛の走査型電子顕微鏡写真(撮影:桑江朝比呂)

さらに、シギ・チドリが繁殖地と越冬地の間を長距離移動する際、「補給地」として利用する主要な中継地の多くが、バイオフィルムの豊富な河口干潟であるという事実は、バイオフィルムとシギ・チドリ類の個体数との間に関連がある可能性を示している。

7つの生態工学的特徴

この論文では、日本において干潟を回復させるための数十年にわたる人為的介入の経験から得られた教訓と、カナダ太平洋岸のフレーザー川河口でバイオフィルムを餌とするシギ・チドリに関する最近の研究を用いて、小型のシギ・チドリ類にとっての生息地を改善する方法を検討した。

まず、生息地改善の目標を、「様々な餌資源を利用できるようにする」こと、「エネルギー摂取速度を最大化すること」、そして「採餌活動時間を最大化すること」の3つに置いた。これらの目標を達成するためには、次に挙げる7つの生態工学的特徴の組み合わせが必要であると考えられる。

1) 微粒子が堆積してバイオフィルム形成を促進するような、遮蔽された場

2) 採餌エリアを広げ種間競争が緩和されるような、澪すじや潮だまりなどの複雑な微地形を有する場

3) バイオフィルムや無脊椎動物を採餌する機会を増やすことのできるような、広く平坦な場

4) バイオフィルムを含む様々な餌が確保できるような、泥~砂の様々な底質を有する場

5) 小型のシギ・チドリ類が水没せず採餌できるような、干潮時に水深が5 cm以下になる浅い場

6) バイオフィルム生成を促進されるような、適切な淡水と海水の交換がある場

7) ハヤブサなどの捕食者を発見し回避できるような、開放的な景観

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今回提案した7つ生態工学的特徴を満たす干潟の模式図。:満潮時(上図)と干潮時(下図)。水の色は水深の違い、底泥の色は標高の違いを表している。潮間帯上部の暗い色はバイオフィルムを示している。

現地での活用

この新しい知識を実際に活用するためにはどうすればよいだろうか?プロジェクトの成功を適切に評価するためには、プロジェクト実施前、実施中、実施後において、シギ・チドリ類による干潟の利用とバイオフィルム群集を何年にも渡って綿密にモニタリングし、対照地と比較する必要がある。シギ・チドリ類のために早急にバイオフィルムを積極的に回復・改善させる必要があるものの、現在のところそのような試みは行われていない。

その一方で、バイオフィルムや珪藻類の生態が依然として謎に包まれているため、バイオフィルムが渡り鳥に好まれる理由は何か、その条件を現地で再現するにはどうすればよいか、といった大きな研究課題にはまだ答えが出ていない。特に、私たちが示した7つの生態工学的特徴は、シギ・チドリ類がエネルギーを得るために必要なバイオフィルムの「量」を提供するという目標に合致しているが、バイオフィルムの「質」がシギ・チドリ類の渡りの成功に必要な必須脂肪酸を生成するのに十分であるかどうかは未だ重要課題として残されている。

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カナダ・ブリティッシュコロンビア州・フレーザー川の河口に位置するバウンダリーベイにおける小型シギ・チドリの群れ(撮影:桑江朝比呂)。

実際、小型のシギ・チドリ類が世界的に減少している理由と、その回復に必要な方法を解明する鍵の一つは、バイオフィルム内の珪藻類からこれらの栄養素がどのように生成されるかを理解し、渡りの時期に適切なタイミングでこの生態学的な「仕組み」を現地で再現することにあると考えられる。

本研究の概要(日本語訳あり)と本論文(英語)は以下に無料公開されている:英国生態学会発行Ecological Solutions and Evidence誌(2021年):桑江朝比呂ほか「 干潟生態系における小型シギ・チドリ個体群の回復−バイオフィルムを考慮した7つの生態工学的要件」 

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