
シギ・チドリ類の保全策として重要な干潟上のバイオフィルム
干潟はシギ・チドリ類にとって不可欠な採餌場であるが、気候変動や人為的影響によって深刻な影響を受けている。桑江朝比呂氏らの研究グループは、バイオフィルムに焦点を当てた干潟生態系への積極的介入によるシギ・チドリ類の回復効果について、最新の総説で探っている。A version of this post is available in English. Continue reading シギ・チドリ類の保全策として重要な干潟上のバイオフィルム
干潟はシギ・チドリ類にとって不可欠な採餌場であるが、気候変動や人為的影響によって深刻な影響を受けている。桑江朝比呂氏らの研究グループは、バイオフィルムに焦点を当てた干潟生態系への積極的介入によるシギ・チドリ類の回復効果について、最新の総説で探っている。A version of this post is available in English. Continue reading シギ・チドリ類の保全策として重要な干潟上のバイオフィルム
この論文<では、Harriet Downeyさんと世界各地の保全教育に携わる共同研究者たちが、エビデンスに基づいた保全を促進するために必要なツールやスキルをより広く教えることの重要性を主張しています. A version of this post is available in English. Translated to Japanese by Tatsuya Amano. 生態学分野だけで毎年12,000以上の学術論文が出版されているのをご存じでしょうか。過去20年で、生物多様性保全に携わる人々は非常に多くの情報を手に入れることができるようになりました。しかし、これらの情報が新たに手に入るようになったことで、生物多様性保全において、より効果的な意思決定が行われるようになったのでしょうか… Continue reading エビデンスに基づいた保全のためのオープンアクセス教材
A version of this post is available in English here. 生物多様性を効果的に保全するためには、科学的根拠の存在が鍵となる。しかしながら、科学的根拠の質は様々な要因によって左右される。中でも重要なのが、その研究で用いられた「デザイン」である。 なぜ研究デザインが重要か? 生態学や保全生物学においては、種にとって脅威となる要因の影響や、保全対策の効果を評価するために、様々な手法(研究デザイン)が用いられている。例えば医学のような研究分野では、ランダム化比較試験(RCTs: Randomised Controlled Trials)のような実験的手法が、理想的な研究デザインとして認知されている。しかしながら、生態学においては、調査の対象を処理群と対照群に分けて真に無作為検出することが非常に困難であるため、このような実験的手法を用いることは通常難しい。その代わりに、様々な「偽実験的(quasi-experimental)」デザインが多く用いられてきた(表を参照)。その中でも最も複雑な研究デザインは、処理以前と以後で処理群と対照群を比較するBefore-After Control-Impact (BACI)デザインである。より簡素なデザインとしては、処理前のデータを用いないControl-Impact (CI)デザイン、対照群のないBefore-After (BA)デザイン、処理前のデータ及び対照群がないAfterデザインがある。 CI、BA、Afterデザインのように簡素なデザインよりも、ランダム化比較試験やBACIデザインなど複雑な研究デザインの方が、頑健な科学的根拠を導けることはすでに知られているが、どのデザインがどれほど正確なのか、定量的な比較はこれまで行われてこなかった。しかしながら近年、政策を含む意思決定やメタ解析を行う際に、対象となる個別研究の質を考慮しながら科学的根拠を統合することが強く求められており、研究デザインの正確度を定量的に評価することは非常に重要な知見をもたらすと考えられる。 本研究で明らかになったこと 本研究ではシミュレーションを用い、脅威もしくは保全対策が仮想の種個体群に及ぼす影響を、5種類の研究デザインがどれだけ正確に推定できるのかを検証した(下図参照)。より現実に即した生態学的状況で評価を行うために、BACIデザインに従った形式の47の生態学的データから抽出したパラメータをシミュレーションで用いた。例えば、対照群が存在しないBAデザインでは、もし対照群でも処理の前後で個体群に変化が生じている場合、推定される効果には偏りが生じる。同様に処理前後のデータがないCIデザインでは、もし処理以前にも処理群と対照群に違いが存在する場合、効果を正確に推定することができない。そこでBACIデザインに従った形式のデータから、実際に処理前後での対照群と処理群の変化や、処理前の対照群と処理群の差などを推定し、シミュレーションでこれらのパラメータの影響を検証することで、各研究デザインがどの要因にどのような影響を受けるのか明らかにすることが可能となった。 シミュレーションの結果から、簡素な研究デザインを利用すると非常に偏った推定につながること、またサンプルサイズを増やしても簡素な研究デザインの正確度は向上しないことが明らかになった。つまり、対象とする要因の影響について正確な推定を行うためには、頑健な研究デザインを利用する必要があると言える。例えば、ランダム化比較試験やBACIデザインによる推定値は、その他の簡素なデザインよりも数倍正確であり、特にCIデザインとAfterデザインを用いた場合、真の影響とは異なる方向の影響を推定してしまうことすら多々あった。 今後の研究への提言 生態学において複雑な研究デザインを用いることは確かに困難であるものの、可能な限り頑健な研究デザインを用いることはやはり重要であると言えるだろう。そのためにはまず、頑健なデザインの利用を阻害している要因を特定する必要がある。例えば、短期的な研究資金のみでは、長期調査が必要となるBACIデザインを用いた研究を行うことは困難である。また、どのように保全対策の効果を検証するのかを、プロジェクトの計画段階から十分に検討することで、実際に保全対策を行う前からBACIデザインに必要なデータを収集し始めることが可能となるだろう。 一方、残念ながら、生態学において要因の影響を評価する研究の質が今後すぐに向上していくとは考えにくい。そこで、保全に関わる政策や活動で科学的根拠を利用する際に、個別の研究の質を考慮にいれて評価を行う手法の確立が必要となる。このような場合に通常用いられるメタ解析では、効果サイズの分散逆数やサンプルサイズを用いて各個別研究を重み付けするのが慣例である。しかしながら、分散が小さい研究やサンプルサイズの大きい研究が必ずしもより正確度が高いとは言えないため、この手法には問題がある。一方、簡素なデザインを用いている研究を単純に対象から除外してしまうメタ解析も多い。しかしこの手法では対象とできる科学的根拠が少なくなってしまい、その後の意思決定にも影響を及ぼす。この場合、全く情報を用いないよりは、存在する情報を注意して用いたほうがよいと言えるだろう。 そこで本研究では、各研究のデザインとサンプルサイズという2つの情報を用いて、メタ解析で個別研究の質を評価する際に利用できる重み付け手法を確立した。この手法では、メタ解析における結果を、各個別研究のデザインとサンプルサイズによって調整し、これまでメタ解析で用いられてきた分散逆数による重み付けと同様に利用することができる。この重み付けスコアは下記ウェブサイトで算出することができる。 本研究では、この新しく提案した重み付け手法によって、既存のメタ解析の結果がどのように変わるかも検証した。その結果、新しい重み付け手法では、分散逆数を用いた重み付けよりも効果サイズが有意になりにくいことが分かった。これは既存のメタ解析に簡素なデザインの研究が多く含まれているためだと考えられる。本研究で提示した個別研究を重み付けする手法は、今後メタ解析を行う場合はもちろんのこと、メタ解析が行えない場合(効果サイズを算出できる研究が少ない場合など)にも、科学的根拠の頑健さを評価するために有用となるだろう。 本研究の結果は、生態学で要因の影響を評価する際に、頑健な研究デザインを利用することが如何に重要であるかを明確に示している。科学的根拠を評価する際に研究デザインの違いを考慮しないと、最も効率的な方法で生物多様性を保全していく手法について、保全活動従事者や政策決定者に対して大きく誤った情報を伝えてしまうことにつながる。今回の研究を一言で表すとすれば、「研究デザインは重要!」、となるだろう。 Read the open access article, Simple study designs in ecology produce inaccurate estimates of biodiversity responses, in Journal of Applied Ecology. Continue reading 研究デザインは重要
片山直樹氏らの日本での研究によると、有機稲作は従来の農業よりも多くの植物、クモ、トンボ、カエル、水鳥を支えている。 A version of this post in English is available here. 20世紀半ば以降の農業の集約化と、より近年の耕作放棄は、農地の生物多様性に対する大きな脅威となっている。有機農法と低投入型農法(化学合成農薬および肥料の削減)は、農地の生物多様性を、進行中の生息地の損失と劣化から守る手段として期待されている。それにもかかわらず、有機農法や低投入型農法が生物多様性にもたらす利益についての知見は、主要な米の生産地であるアジアでは非常に少ない。 著者らの研究では、有機農法や低投入型農法で増える可能性のある様々な生物群(植物、クモ、トンボ、カエル、魚、および鳥)を、有機農法または低投入農法の水田で調査し、近隣の慣行農法の水田と比較した。1000以上の日本の圃場で現地調査を行った。日本では、主に地球温暖化防止や生物多様性保全のために、有機農法や低投入型農法を実施している農家に対して、国や自治体が支援を行っている(0.1 ha当たり最大8,000円=2019年5月21日時点で約72.6 USDまたは65.1 EURに相当)。 著者らは、有機農法の水田において、多くの生物群(在来およびレッドリスト植物、アシナガグモ属、アカネ属、およびトノサマガエル属)の種数・個体数が最も多くなることを実証した。水鳥の種数と個体数は、地域内の有機農法の実施面積に比例して増加し、これは広範囲で食物量を高めることの重要性を示唆した。また低投入型農法の水田は、慣行農法の水田よりも植物の種数とアシナガグモ属・アカネ属の個体数が多かった。さらに著者らは、農業者へのインタビューを通じて収集した農地管理に関するデータを用いて、化学合成農薬の低減や回避だけでなく、輪作の非実施、畦畔植生の維持および空間的にまとまった有機農業の実施によって、生物多用性に配慮した稲作が可能になることを示した。 これらの結果から、慣行農法と比較して、有機および低投入型稲作が農地の生物多様性が豊かであることが明らかになった。これにより、日本で実施されている農業環境政策(有機・特別栽培等に対する交付金制度)の効果について、科学的な評価基盤を提供することができた。さらに、輪作を回避すること、畦畔植生を適当な高さに維持すること、および有機栽培を行う水田を空間的にまとめることも、特定の分類群の保全に有効であることがわかり、こうした取組の推進が望まれる。 全文を参照, 有機農法およびそれに関連する管理手法が複数の生物群に利益をもたらす:水田景観における大規模な野外調査, in Journal of Applied Ecology. Continue reading 春の日本の水田