片山直樹氏らの日本での研究によると、有機稲作は従来の農業よりも多くの植物、クモ、トンボ、カエル、水鳥を支えている。
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20世紀半ば以降の農業の集約化と、より近年の耕作放棄は、農地の生物多様性に対する大きな脅威となっている。有機農法と低投入型農法(化学合成農薬および肥料の削減)は、農地の生物多様性を、進行中の生息地の損失と劣化から守る手段として期待されている。それにもかかわらず、有機農法や低投入型農法が生物多様性にもたらす利益についての知見は、主要な米の生産地であるアジアでは非常に少ない。
著者らの研究では、有機農法や低投入型農法で増える可能性のある様々な生物群(植物、クモ、トンボ、カエル、魚、および鳥)を、有機農法または低投入農法の水田で調査し、近隣の慣行農法の水田と比較した。1000以上の日本の圃場で現地調査を行った。日本では、主に地球温暖化防止や生物多様性保全のために、有機農法や低投入型農法を実施している農家に対して、国や自治体が支援を行っている(0.1 ha当たり最大8,000円=2019年5月21日時点で約72.6 USDまたは65.1 EURに相当)。

Photos: Yoshinobu Kusumoto, Yuki G. Baba, Koichi Tanaka, and Naoki Katayama
著者らは、有機農法の水田において、多くの生物群(在来およびレッドリスト植物、アシナガグモ属、アカネ属、およびトノサマガエル属)の種数・個体数が最も多くなることを実証した。水鳥の種数と個体数は、地域内の有機農法の実施面積に比例して増加し、これは広範囲で食物量を高めることの重要性を示唆した。また低投入型農法の水田は、慣行農法の水田よりも植物の種数とアシナガグモ属・アカネ属の個体数が多かった。さらに著者らは、農業者へのインタビューを通じて収集した農地管理に関するデータを用いて、化学合成農薬の低減や回避だけでなく、輪作の非実施、畦畔植生の維持および空間的にまとまった有機農業の実施によって、生物多用性に配慮した稲作が可能になることを示した。
これらの結果から、慣行農法と比較して、有機および低投入型稲作が農地の生物多様性が豊かであることが明らかになった。これにより、日本で実施されている農業環境政策(有機・特別栽培等に対する交付金制度)の効果について、科学的な評価基盤を提供することができた。さらに、輪作を回避すること、畦畔植生を適当な高さに維持すること、および有機栽培を行う水田を空間的にまとめることも、特定の分類群の保全に有効であることがわかり、こうした取組の推進が望まれる。
全文を参照, 有機農法およびそれに関連する管理手法が複数の生物群に利益をもたらす:水田景観における大規模な野外調査, in Journal of Applied Ecology.